性別を変え、戻る時、疲労が出る。頻繁に変われば体が慣れてくるが牡丹は最大一週間ぐらい男のまま、耐えられる。マァンに会った時は久しぶりに男になったので次の日はとても疲れてしまった。なので牡丹は考えて一週間に一回あの店へ行こうと牡丹は思った。
そして一週間後。この前と同じように窓から出て、チューベローズ道へ向かった。


道は変わらず、甘い香りがし、女は男を誘い、店員は客を呼び込む。酔っぱらい同士が喧嘩しているようだが周りの人達は気にしていない。牡丹は薔薇少女への扉を開いた。
「おやおや!いつぞやのお客様!いらっしゃいませ」
「おう マァンはいるか?」
「マァンですね、しばしお待ちを…」
呼ぶ前にヒールの音が走ってくるのが聞こえた。
「あなたはっ…!」
マァンと牡丹は目が合う。牡丹は微笑んだ。マァンは嬉しさのあまりに人前で抱きついていた。そして溜まりに溜まった声で言う。
「あぁ…!どんなに待っていたか…!」
「来ると言っただろう」
「でもでも、一週間も来ないなんて…私、私…」
「とにかく部屋に入ろう」
「100号室を確保していますわ 行きましょ」
マァンは牡丹の腕を離せまいという感じに抱きしめて二人地下へと歩いていった。店員はポカーンとした顔である。と、その様子を柱の後ろから見ていた人がいた。ソンである。
(なになになに!?あのマァンの変わり用!ちょっと異常なんじゃない?)
ソンは突っ立っている店員に話しかける。
「ちょっと!」
「うおわ!ソンか…なんだい」
「あの客誰よ?」
「いや…この前一回来た人だけど…」
「どんな奴?」
「さあ?マァンにでも聞いておくれ」
店員はいつもの店員に戻り仕事に戻った。ソンは頬を膨らませて不満な顔をした。何にも情報が得られなかった。ソンは急いで二人の後をついていく。
(一体マァンに何を吹き込んだのかしら…!)
階段を音がしないように降りる。
「ん?」
「どうしたの?」
「…いや…」
牡丹は後ろを振り返った。ソンの姿は見えないが微かに聞こえるヒールの音に牡丹は反応した。牡丹の耳にはゆっくりと慎重に近づいてくる靴の音が聞こえる。だからといって王族を狙う者でもなさそうだし、牡丹の男の姿は知らないはずだし、どう聞こえても素人が近づいてくる音だと牡丹はすぐに気付いた。特に気にせずに100号室の部屋へ入った。扉の音をわざと立たせて入る。ソンはその音を聞いて駆け足で降りてきた。ソンは扉の前へ行くと扉に耳を当てて聞く耳を立てる。話し声のようなのは聞こえるがなんと言っているのかわからない。ソンは耳に集中した。だが、熱心に聞きすぎたようだ。突然扉が動いたと思うとソンは部屋の中へ倒れてしまった。
「ぎゃっ!」
情けない声をだしたソン。
「ソン!?あなた何してるの!」
ソンが顔を上げると牡丹が立っていた。電気の逆光によって牡丹の顔は暗く、威圧感がある。その後ろからマァンが牡丹を押しのけながらソンに近寄った。戸惑いと怒りが混じったようにソンに言う。
「あなた、お客様に失礼でしょ!!何しているのよ!」
「…ご、ごめ…」
「ほら、立って ごめんなさいね すぐ出しますので」
マァンがソンの背中を押す。するとソンは反抗した。マァンの手を振り返りながら追い払った。ソンの手がマァンの手の甲に勢いよく当たるとソンは言い放った。
「あんたこそなんなのよ!マァン!この前までは仕事ちゃんとやってないし、ミスはするしで、しかも、こいつが来た途端変わってさ!おかしいんじゃない!?」
「ソン!なに言って…!」
「あんた周りの迷惑も考えなさいよ!こんな、こんなやつに…」
無言で立っていた牡丹に目をつけてソンは言った。
「こんな二性不のやつなんか、」
ソンは言葉に出してハッとした。言葉を飲み込んだようだったが時は遅く。二人の耳にはハッキリと聞こえた。マァンは驚きながらもじわじわと眉間にシワを寄せてきた。
「あなた!それわかって言っているの!!この国にいられなくなるわよ!!」
ここは自由の国。体が違えども、体一部なくとも、障害があれども、命あるもの全て、この国は大切に思っている。勿論差別などない。差別は憲法違反である。もし、誰かが差別を言ったり行動をしたら即、刑を与えられるだろう。いうならば死刑である。この国は国民の心を掴むために徹底的に処罰をしてきた。それは今も変わらない。もし、ソンの言葉を誰かが王族関係者に報告していたら…
ソンの顔は見る見る内に青ざめていく。
「あ、あたし…そんなつもりじゃ…」
体が震え、涙はたまり、言葉は詰まり、今にも崩れ落ちそうだ。マァンはソンの肩を支えながらソファーへと座らせた。
牡丹は黙ったままそれを見ていた。マァンは牡丹の視線を感じて顔を向けて許しを請う。
「ごめんなさい…あなた…本当に…」
マァンは一粒涙を流した。
普段の牡丹ならその場で死刑か、裁判へ連れていくか…はたまた国から追い出すか…それくらいの権力はある。だが今は男の牡丹でありこの姿は国民は知らない。こんなところで正体を明かすこともできぬ。それにあの女は悪くはない。牡丹はゆっくり近づいた。そして隣に座った。ソンは体を震わせた。怖い。怖いのだろう。自分が死ぬか生きるか、かかっているのだから。
牡丹は手を伸ばした。そしてソンの頭を撫でた。
「…?」
ソンは涙ながら牡丹の顔を恐れ恐れ見る。牡丹はとても穏やかな口調で言った。
「心配だったんだな マァンのこと」
というとソンの目から大粒の涙が溢れ出した。
「…うっ、う、ん…」
返事に牡丹はホっとした。マァンはソンの背中をさすりながら聞いた。
「そうなの?ソン」
「うん、…だって、店長に注意、だくざん、されでっ…たから、お店、首にっ…うっ、なっちゃうかもって、…噂あった、し、」
マァンはどうやら初耳らしい。目を丸くした。ソンは続けて言う。
「それに…ボーッと、して…話…聞いてっ、くれない…し…うぅっ…」
「そうだったの ごめんなさいソン あなたの気持ちに気付いてあげれなくて」
マァンはソンを優しく抱きしめた。マァンの温もりがソンの心を癒してくれる。ソンは安心したようで涙も体の震えも落ち着いてきた。牡丹はやれやれといった感じで、邪魔しちゃ悪いとも思い、立ち上がる。
「すまなかったな ソン 私がいたせいで」
と牡丹が言うとソンは慌てながら立ち上がり、けっこう大きな声で言った。
「な、なに言ってるのよ!あんたのせいなんかじゃなわよ!あたしが勝手に嫉妬してたっていうかなんていうか…だから、あんたは悪くないっ!!」
顔をづいづい近づけていうもので牡丹は気迫に驚いた。マァンがソンを止めると、やっと気付いたらしく
「あ、あ、ごめん、なさい…えっと、」
動揺しながら髪をいじる。牡丹は少し笑って
「大丈夫 さっきのことは誰にも言わないし、気にしてない」
「ほ、ほんと!?」
「そのかわり」
牡丹はソンの手を握って言う。
「今度はお前も指名する」
この時、きちんと牡丹の顔を見たソンは心臓の鼓動が高鳴ったのを感じた。手を離れ背をむけて牡丹は出て行った。マァンはソンの隣へ並び、意地悪な口調で
「惚れちゃったかしら?」
「え、あっ!ないないない!ありえないから!!」
とソンは真っ赤にしながら言った。