「下着泥棒?」
牡丹は少し間抜けな声で言った。
牡丹は椅子に座り、国民からの依頼や困り事が書いてある紙を見ている。正面にはジャンとその後ろに牡丹専用の兵達が、跪き、頭を下げていた。
「あー…楽にしてろ」
牡丹がそう言うと兵とジャンは顔をあげた。ジャンは立って説明をし始めた。
「最近下着泥棒が多いようです。一人暮らしの女性、家族暮らし、泊まりの女性にも被害があります。若い女性の下着が多いわけではなく、老人、子どもの下着も盗まれているそうです。犯行はおそらく夜。ですが干した瞬間になくなっているという時もあるようです。下着を盗んだかわりに薔薇の花、一束を置いていくようで、被害にあった家に全てありました。犯人の姿を見た者はいなく、おそらく透明術を使っている模様です。…報告は以上です」
ジャンの説明が終わると牡丹はわかりやすく、ため息をついた。そして一言。
「くだらねぇ…」
「牡丹様、あなたも女性でありますでしょ?」
「別に…私の下着が盗まれてもなんとも…というかなんでこれ私のところに来たんだ?」
ジャンは少し言いづらそうに口をモゴモゴさせながら言う。
「いや、あのですね…」
「椿に言えばいいだろ」
「椿様はその、お忙しいらしく…」
牡丹の眉がピクリを動いた。
「…梅」
「梅様は医者のお勉強で…」
「…父上…は、しないか…」
一通り言い終わると静かになった。ジャンは恐る恐る、視線を牡丹に向ける。と、牡丹が持っていた紙がゆっくりと燃えだした。ジャンと周りの兵は驚き、肩を震わした。紙がボロボロ燃えながら崩れると牡丹は怒りに満ちた声で
「椿…」
「ぼ、牡丹様、」
「どうせあいつ女のようだろ、遊び人が…!」
椿はめんどくさいことはすべて牡丹に押し付ける癖がある。本当は椿宛てにきた依頼のはずだが。紙はすっかり焦げ落ちてなくなった。牡丹は立ち上がる。ジャンは宥めようとする。
「まあ、まあ、よくあることではないですか!どうせ姫も暇…」
口が滑ってしまった。ジャンはやばいと思ったが時は既に遅し。
「…ジャン?」
兵達は恐怖しながら見守るしかできなかった。



なんだかんだ文句を言いながらも牡丹は引き受けることになった。
「とりあえず国民に話でも聞いてみるか」
「そうですね」
ジャンの頬には大きな絆創膏が貼られていた。不満そうな表情と声だったが牡丹は無視して歩きだした。城の門を開け、外へ。
今日も天気が良い。太陽が晴れ晴れとしている。風は爽やかに吹き、鳥は鳴き、水は美しく流れる。名物の花も咲き誇る。とても清々しい気分だ。牡丹とジャン、そして数人の兵を連れて歩き出す。
まずは被害にあった方に聞きに行くことに。とあるマンションの4階に住む若い女性に話を聞くことに。
「きゃー!ぼ、牡丹様!?こんにちわー!」
「こんにちわ」
牡丹がニッコリスマイルに答えると女性はまた一声あげる。牡丹は平均女性の身長より少し高い。しかも他の男よりも男らしい性格でこの通り、椿と争うほどの女性人気が高い。牡丹も騒がれることは嫌いではなく、むしろ喜んでいる。
「牡丹様 今日も素敵ですね!」
「君のほうが素敵だよ 可愛いな」
「もういやだわ 牡丹様ったらお上手なんだから」
「本当のことだよ」
「牡丹様…」
「あのー…牡丹様 調査を…」
ジャンが口を挟むと女性からすごい形相で睨まれた。ジャンが驚いていると牡丹は小さくため息をついて、気持ちを切り替えた。
「お嬢さん、下着泥棒の被害にあったんだろ?」
女性は下着泥棒という言葉が耳に入ると、怒りながら、だが、牡丹には少しぶりっ子のように話だした。
「そうなんです!夜に下着洗って外に干したらなんかベランダで物音がするんで、見たら下着なくなってたんです!私、びっくりして あちこち探したんですがなかったんですよ!そしたらベランダに薔薇が落ちてたんです!もう気持ち悪くて…」
「姿は見てないのか」
「はい…」
女性が少し申し訳なさそうに顔を下に向けると、牡丹は指で女性の顎を持ち上げた。目を見つめて
「大丈夫 私が捕まえてやるよ」
「牡丹様…」
「だからそんな悲しい顔をするな」
「…はい…」
ジャンと兵達はすごく置いてけぼり感に襲われた。
女性の話を聞き終わり今度は第二の被害者の話を聞きに向かう。今度は50代の女性。家族暮らし。夫、被害者、息子二人と住んでいる。一軒家で庭があり、そこに洗濯物を干している。外壁が魔法壁になっており、家族以外が触ると跳ね返す仕組みになっている。屋根からにも魔法鳥が何体か飛んでおり、攻撃するように設定されている。しっかりとした対策があるが下着泥棒はそれを乗り越えたらしい。
「私のお気に入り取られてしまったのです」
「犯人は見たか?」
「いいえ見てませんわ ほんのちょっと庭から離れていたスキに…」
犯人は相当、逃げ足が早いようだ。魔法壁も魔法鳥も抜けられる、けっこうな魔力の持ち主となる。
「こんなんじゃ洗濯物が干せませんわ」
女性がため息をつくと、牡丹はすかさず
「大丈夫 私に任せなさい」
「牡丹様…」
「安心してくれ」
「はい…」
夫持ちの女性の心も牡丹はいとも簡単に癒した。
まだ情報が少ないので牡丹達はまだ歩く。話を聞くと大抵、「犯人の姿を見ていない」という。誰もが知らない犯人。牡丹がふざけて「まさか椿ではないだろうな?」と笑いながら言うとジャンと兵達は苦笑いしながら流したり…牡丹がいちいち女性を元気口説くのでジャンが正直に「椿様に似てきましたね」というと、また一発殴られたり…結局、夕方になった。犯人の情報は全く掴めない。とうとう最後の被害者に会うことに。12歳の少女である。今帰ってきたばかりのようで制服のままである。親と一緒に話を聞くことにした。少女は牡丹達におっかなびっくりだったが、キチンと自分の言葉で話してくれた。
「私、なんとなくだけど、見た気がするの…」
「見たって犯人をか?」
「は、はい…」
これはチャンスだと思い、ジャンが牡丹を押しのけて少女に聞いた。
「どんな格好だった」
「えっと、真っ黒いマント着ていて、帽子をかぶってた 大きなつばの帽子 顔はよく見えなかったけど、たしか白くて長い髪だったと思います…」
「身長は」
「…わ、わからない…です…一瞬だったから…」
「なにか武器は持っていたか?声は?なんの魔法を使っていた」
ジャンが畳み掛けるように聞くので少女は後ずさって、親の後ろに隠れてしまった。ジャンはここで気付き、小さいな声で謝った。牡丹は眉間にシワを寄せてジャンを後ろへ、行かせた。
「すまないお嬢ちゃん だがお嬢ちゃんのおかげで犯人が想像しやすくなった 礼を言おう」
親にも礼を言い、牡丹達の聞き込みはとりあえず終わった。
帰り道、狭い路上を歩きながらジャンが口を開いた。
「犯人の唯一の特徴としては白髪の長髪ですね」
「そうだな」
「そのような人はあまり見かけませんが…とくに男だったら…」
「なかなかいないな 時間かかりそうだな」
「出くわせばいいんですけどね」
「そんな都合のいいわけが…」
と言った時だった。牡丹達の上から何かが飛び越えた影が。そしてその後に悲鳴が聞こえた。女の声だ。牡丹達はすぐさま屋根の上へ上る。牡丹の前方に黒い人影が。そしてキラキラ夕日によってなびいているのが見える。白髪の長髪だ。牡丹は腰に刀に手をかけながらジャンと兵達に指示した。
「ジャンは私とついてこい!他は被害者の元へ行け!!」
というと牡丹は犯人の後を追う。ジャンも牡丹に続く。犯人は屋根の上を軽々しく飛んでいる。なかなか、早素早い。
「ジャン止めろ」
「はい」
ジャンは手を犯人に向けると魔力によって巨大な手が浮かびあがってきた。ジャンの手が犯人に向けられると、巨大な手が犯人に向かって移動した。犯人のすぐ後ろに行くと、ジャンはタイミングよく、自分の手を掴むような動作をする。すると遠く離れていた巨大な手も同じ動きをする。すると犯人が巨大な手に捕まったのが見えた。牡丹は素早く、捕まっているはずの犯人の元へいったが、
「ちっ!」
牡丹は舌打ちをすると、すかさず後ろを振り返った。そこには犯人が別の方向へ逃げて行くのが見えた。牡丹は刀を抜き、犯人に向かって振り上げると、刃から赤い刃が弧を描きながら犯人に向かった。犯人は気付き、避けた。が、避けきれなかった足首が弧にあたって、血が出るのが見えた。犯人はマントで足を隠して、そのまま逃げて行った。牡丹は黙って見るだけ。後からジャンが牡丹へ駆けつけた。
「牡丹様、すいません 捕らえることができずに…」
「いや、良い それに傷を負わせた 時期にやつの足の傷が赤く光るだろう」
牡丹の先ほどの技は相手の体に傷を負わせれば、赤く光り、夜でも見つけやすくなる魔法だ。布でも隠しきれない強い追跡魔法。牡丹は刀を鞘にしまい、
「被害者の元へ行こう」
「はい」
「急ぐぞ」
牡丹とジャンは被害者の元へ向かった。