牡丹は酒を一口飲んだ。濃い味が喉を通る。ふいに、腕を軽く引っ張られてマァンは言った。
「最近下着泥棒が流行っているんですって」
男の牡丹は反応した。すぐさま質問をする。
「そうなのか」
「えぇ」
「お前 盗まれたのか?」
「いいえ でも被害に会った子ならいるわよ」
「何 ぜひその子と話をさせて欲しい」
牡丹はグラスを置きマァンに面と向かって言った。マァンは驚きながらも意地悪な顔をした。
「あらぁ なぜ?」
「いや 気になって」
「…あなたって秘密多いわね」
マァンは人差し指で牡丹の胸板の真ん中を押した。そのままねじるように触る。
「名前は教えてくれない 仕事も教えてくれない 年齢も教えてくれない…スパイなのかしら」
マァンはニヤリと笑う。牡丹は黙って見ていたがマァンの手を取り、握ると真っすぐな目で
「いずれ話す それまで側にいろ」
ハッキリとした命令口調で牡丹は言った。やけに真剣だったので、わけありかなとも思った。だが本当はその真剣さがあまりにも素敵だった。他の男とは全く違う、素敵で男らしい。マァンは頬を赤く染めてウットリした。牡丹が「マァン?」と名前を呼ぶとマァンは我に帰り、
「今、その子を呼ぶわ」
と言って席を立った。
しばらくして扉が開いて、
「連れてきたわよ」
マァンが出てきた。するとすぐ横にソンも来ていた。牡丹はまずソンに
「なんでソンが?」
「なによ あたしの勝手でしょ」
と言って腕を組んでしかめっ面であった。マァンがクスクス笑うと
「ソンはこの子が心配だからついてきたの」
「なっ…!」
ソンが慌ててマァンの口を閉じようとする。牡丹は感心した表情で
「優しいなソン」
というとソンは真っ赤になりながらも牡丹を強く睨みつけた。
「うるさい!もう、それより話聞くんでしょ」
ソンは後ろを振り返り、被害者の背中を押して前に出させた。その子はそっと顔を上げた。オレンジ色のショートヘアで羽の髪飾りが肩まで伸びていた。健康が良さそうなふくよかな体つきで、露出度が高い服から胸がこぼれそうである。いわいる巨乳である。
人見知りなのか、マァンの後ろに隠れてしまった。マァンが一声かけると。オドオドしく出てきた。目はとろんと垂れていた。牡丹は優しく声をかける。
「名前はなんて言うんだ?」
「…リ、リン…」
リンと名乗る子は静かにそう言った。
「ごめんなさいね この子人見知りでしかも男の人が苦手なものだから…」
「そうなのか だがなぜこんな仕事を」
「苦手意識を治したいからって」
マァンはリンの顔を覗き込み、励ましの声をかける。リンの後ろにはソンが心配そうに見ていた。リンが深呼吸をするのを見て、牡丹は本題に入った。
「お前は下着泥棒の被害にあったんだってな?」
牡丹の「お前」呼ばわりに少しビビってしまったのか、すぐには声に出さず一呼吸置いて小さく「はい…」と答えた。ソンに睨まれると牡丹はもう少し言葉を優しくして質問した。
「いつ被害にあったんだ?」
「えっと…一週間前…です 夜中でした」
「どこに干してた?」
「ベランダに…干して、少したったら…盗まれていました」
「犯人の姿は見たか?」
「は、はい…」
リンの言葉に牡丹は反応した。リンは続けて言う。
「黒いマントにつばが大きな帽子をかぶっていて…白い長髪でした…薔薇を置いているのを見て…」
「なるほど…」
「すごい速さで行ってしまってました…風魔法のようでした」
そういえば犯人と遭遇した時、攻撃は無しで逃げていた。素早い動きだったので風魔法だという確率が高い。牡丹はしばらく考えこんでいたが視線に気付いた。牡丹は立ち上がって
「ありがとう いい話が聞けた」
「あらもういいのかしら」とマァン
「あぁ十分だ 私は帰るとする」
牡丹は扉に向かって歩き出し、すれ違う瞬間にリンの肩を叩いた。そして部屋を出て行った。リンはしばらく後ろを振り返っていた。マァンがリンの耳元に
「どう?素敵な人でしょ」
と言うとリンは
「…わかんない」
と言った。




朝になり、いつものように女の牡丹はジャンと兵を集めた。そして今日の夜に本格的な犯人探しをし、捕まえることになった。
「犯人の特徴はその紙に書いてある通りだ 頭に叩き込んどけ」
牡丹はそういうと紙を魔力で浮き上がらせ、紙から文字だけ取ると兵達の脳に入り込み、覚えさせた。言葉通りである。
「牡丹様 作戦はありますでしょうか」とジャン
「作戦?ないないそんなものはない」
牡丹はめんどくさそうに答えた。ジャンはため息をつき牡丹に言う。
「またそれですか 作戦を考えないと捕まりませんよ」
「あー作戦はみんなで力を合わせてだ 協力だ協力」
「牡丹様…そんなことでは…」
「いいんだよ 作戦なんて考えるの苦手なんだよ」
「ですからあれほどお勉強なさいと…」
「うるさいぞ お前の説教まがいは聞きたくない」
「牡丹様 これも国民のため貴方様のために…」
牡丹とジャンが口喧嘩を始めてしまった。いつもの光景だが兵達は苦笑いをする。
「とにかくだ!」
牡丹は大声をだし、自分に注目させた。牡丹は兵達、一人一人を見るように力強く言う。
「いいかお前ら 必ず捕まえろよ これは命令だ 殺すのはするな 生け捕りだ いいな」
「はい!」
兵達が同時に返事をする。皆、良い顔と姿勢で牡丹に従った。ジャンが牡丹に少し心配そうに言う。
「大丈夫でしょうか?」
「何言ってんだ 遭遇した時、私が魔法で目印しただろ?」
「そうですが…相手はすばしっこいです」
「だから協力だって言ってんだろうが」
牡丹はそう言ってジャンの尻を蹴って気合いを入れさせた。



夜になり、城の外で簡単な作戦が聞かされた。勿論考えたのはジャンである。
「いいですか皆さん 夜中なので多くの国民が就寝している頃です なるべく 素早く静かにするのがベストかと 我が国には国に入るための門が4つあります まずそこのに5人ずつ配置し空にも風魔法で5人飛びながら見張っていただきます そして探すのは5グループ3人で行います 本当はもっと兵達を増やしたかったのですが…」
ジャンがため息を出す。牡丹が後ろから
「お前なぁ城の警備も国の外の警備もあるんだ そんなに増やせるか」
と厳しく言った。牡丹の兵はもっと多い。だが全てが下着泥棒なんかに使えるわけがない。今は手があいている者のみでおこなう。ジャンはもう一度ため息をつくと作戦の続きをした。
「犯人は牡丹様がした追跡魔法で足が赤く光っているはず 赤いく光っているのを必ず探してください 見つけたら脳内に直接知らせてくださいね」
共有魔法のことである。伝えたいことを一度脳内で形にし、それを伝えたい者へ送る上級者魔法の一つ。兵達は頷いた。作戦が言い終わると後ろにいた牡丹がみんなの前に向かい
「お前達は優秀だ 必ず捕まえられると信じている」
これは牡丹からのありがたいお言葉でもあり絶対命令でもある。プレッシャーが増えるがなかなか心地よい感じである。兵達の目つきが変わるのを確認すると牡丹は
「行け」
と同時に兵達は自分らの持ち場に向かった。ジャンと後ろに3人だけの兵を残し
「私達も配置につくか」と牡丹。
「はい 牡丹様」
5人は歩き出した。
今は夜中の12時。美しい月明かりが牡丹達を照らしていた。